私、今から詐欺師になります

「いけないか?」

「いや、いいけどさ。
 大丈夫?

 お兄ちゃん、デートしたことある?
 無理やりおばさんにやらされた見合いの席以外で」

 あれは最悪だったな、と思った。

 ホテルのレストランで食事をして、なんだかわからないが、庭を歩かされた。

 会話もなく、相手の顔もよく覚えていない。

 すさまじく無駄な時間だった。

「ちょっと茅野ちゃん風のおとなしげなお嬢様だったのに。
 あのときは好みじゃなかったのにねえ」
と玲に言われ、そんな女だったかな? と首をかしげる。

 だが、やっぱり思い出せなかった。

 印象にない。

 茅野は確かに美人でスタイルもいいが、そんな女はこの世にたくさん居る。

 何故、茅野のことだけがこんなに心に引っかかるんだろうな、と思っていた。

「僕もついていってあげようか?」
と玲に言われ、

「大丈夫だ」
と答える。