なんだかわからないが、そそくさと省吾が逃げていったあとで、ちょっと面白くなさそうに穂積が言ってきた。
「少し顔を隠すだけでよかったんじゃないか?
あんな派手に隠れなくてもいいだろう」
「いえいえ。
秀行さんは恐ろしいことに、私の持っている服をすべて把握しているので、ちょっと顔を隠したくらいでは」
服はほとんどあの人が買ってくるので、と茅野が言うと、
「じゃあ、その服もあいつが買ったのか」
と訊いてくる。
はい、と頷くと、
「急いで食べろ。
俺が一枚買ってやる。
俺と出かけるときには、あいつの買った服は着てくるな」
そう言ってきた。
「ええっ。
そんな申し訳ないですっ」
「服一枚くらいいいだろう。
お前、まだ俺からなにも詐欺してないぞ」
「いいえ。
毎日五千円いただいてますよ」
「いや……それはお前が働いた対価だろ」
と言われた。



