私、今から詐欺師になります

 茅野は秀行の強引さに引っ張られて結婚したことを後悔しているようだが。

 元をただせば、うっかり手を握ってしまった貴女のせいなのでは、と今、思ってしまった。

 それに、秀行が結婚を強行したのは確かだが。

 秀行は、ポケットマネーだけでなく、会社の金も茅野の父親の会社に突っ込んでいる。

 それで、社員に文句を言われないよう、急いで、殿様商売の会社を建て直すのにこちらから役員を送り込んだ。

 それをのっとりだと世間の人は言うようだが、いやいや、あんな手のかかる会社など、わざわざのっとらなくてもよかったのだ。

 会社の方向性も違うのに。

 それらは、すべては茅野のためだった。

 ま、社長の愛情はあんまり茅野さんには伝わってないみたいだけど、と省吾は、溜息をついたあとで、それにしても、この構図はおかしくないか、と思っていた。

 手を繋いでいる自分と茅野。

  ――を心配そうに見ている穂積。

 何故かスプーンを持ってきた店員も、なんなんだろう、という半笑いな顔で、こちらを見たあとで居なくなった。