私、今から詐欺師になります


 
 

「私、久しぶりに仕事して、楽しいんです。

 お願い。
 もう少しだけ、黙っておいてください」

 省吾は祈るような視線を茅野から向けられていた。

「そのうち、私から、ちゃんと秀行さんにはお話ししますから。
 お願いします」
と茅野は省吾の手をつかんでくる。

 うわっ、と省吾は逃げそうになった。

 細い指先なのだが、肌に当たった感じが、ふわっとしていて、思わず、どきりとしてしまう。

 茅野は単に自分の思いを伝えたいだけなのだと思うが。

 強く手を握り、潤んだ目許で見つめてくる。

 うわっ。
 この人、考えなしだなあ、と思った。

 これにやられて、社長もメロメロになったに違いない。

 茅野は大学卒業後、少しだけ、図書館で司書をしていた。

 資料を探しに図書館に行った秀行が、うっかり、なにかの弾みで、茅野に手を取られて、舞い上がって、今に至ると聞いた気がする。

 こんな人が図書館司書か。
 無駄に男が増えてなかったろうか、と思った。