私、今から詐欺師になります

「ともかく、なにも言わないでください」
と茅野が言うと、

「でもそれ、社長の指示なんですよね?」
と省吾は確認してくる。

「そうなんですけど。
 相手が穂積さんだとは知らないんです。

 お願いです。
 黙っておいてください。

 穂積さんに迷惑がかかるし、このことが秀行さんに知られると、奈良坂さんが一番めんどくさいことになりますよ。

 いろいろ調べろとか言われて」

 うっ、と省吾はつまった。

「私、穂積さんの会社で働いてるんです。
 でも、秀行さんに知れると、辞めさせるか、会社に菓子折り持って挨拶に来るかしそうだから」

 菓子折りはいいんじゃないですかね、と省吾は言うが、頭の中では、菓子折りを買いに行かされているのも、挨拶に連れて行かれるのも省吾だ。

 そして、恐らく、それは現実になる。

「私、久しぶりに仕事して、楽しいんです。

 お願い。
 もう少しだけ、黙っておいてください」

 茅野は祈るように省吾を見つめた。