私、今から詐欺師になります

「茅野さんっ。
 なにしてるんですかっ。

 あっ。
 古島社長っ」
と穂積に気づいて言ってくる。

 まさか、浮気ですかっ、とデカイ声で言おうとしたので、しーっ、と茅野は口許に指先を当てた。

 省吾は口許を押さえ、辺りを見回す。

 そして、小声で訊いてきた。

「……浮気ですか?」

「違います。
 結婚詐欺です」

 威張ってそう言うと、
「結婚詐欺?」
と眉をひそめたあとで、省吾は、

「いや、なんだかわかりませんけど。
 それ、浮気じゃないんですか?」
と改めて言ってくる。

「社長に言いますよ」
と眉をひそめ、脅してくるので、

「違います。
 秀行さんの指示なんです」
と言うと、

「えっ?
 じゃあ、古島社長に近づいて、産業スパイですかっ?」
と本人を前に言い出した。

 秀行の忠実なる部下なのかもしれないが、いろいろと問題があるな、と思う。

「産業スパイか。
 確かにそれに近い動きはしてるな……」
と腕を組み、目を閉じた穂積が、ぼそりと言った。

 ……いや、なにも身に覚えはないのだが。