私、今から詐欺師になります

「待たせたな」
と穂積が自分のテーブルに来る。

「いえ。
 言われた通り、頼んでおきました。

 もう来ると思いますよ」
と穂積を見上げ、微笑んだ。

 共通の話題はないかと思ったが、そうでもなかった。

 なんとなく話しているだけで、ちょっと楽しい。

 意外に緊張しないな、と思っていると、窓の外にそれが見えた。

 奈良坂省吾と歩いている秀行だ。

 なにか打ち合わせをしているようで、二人ともこちらを見ていなかったが、落としたものを拾うフリをして、茅野はテーブルの陰に隠れた。

「どうした?」
と言いかけた穂積も秀行に気づいたようだった。

「……行きました?」
とテーブルクロスに寄り添うようにして膝を抱え、穂積を見上げる。

「いや、まだだ」
と言いながら、何故か、穂積も下にしゃがむ。

「あ、貴方はべつにしゃがまなくてもいいじゃないですか」

「いや、お前、一人でしゃがんでたら、間抜けだからだ」

「二人になっても間抜けですよ」
と茅野は笑った。