黒板の消えない文を見て、雪は何を思ったのだろう。
多分、わたしが想いを捨てきれなかったこたは十分に伝わっているだろう。
だから今回は、問い詰めたのだろう。
わたしに、黒板の文字を書いたんだろうって。
「…雪はさ、紫苑が好きなんだよね」
なんとなく問いかける。
だけど雪はすぐには答えず、合間をおいてそっと頷いた。
その反応に、首を傾げる。
「間、空いてた。でも、きっと、好きなんだよね…?」
その言葉には、雪は素直に答えることなく「さぁ」と言葉を濁した。
それについて問い詰めようとしたわたしに、雪はずっと苦しい笑みを浮かべて。
「自分の本当の想いはどうかなんて、知らないふりした方が幸せだよ」
彩芽もそうだろうと、雪は小首をかしげた。
…きっとね、そうだよ。
どんなに湊が好きでもその想いを知らないふりして、湊以外の人を好きだって。
自分の脳にすら嘘を吐いて。
きっとね、そのほうがずっとずっと幸せだよ。
諦めようとしなくても、時間が経てば忘れられるかもしれないから。


