なんかいろいろ卑怯だっ!

極限まで落ち込んだおかげで落ち着いた。
貴島を元気付けよう。こんなとき、私が貴島を底から引き上げないと。


「でも、瑠歌やベルナルドや礼子ちゃんと関わらない生活は嫌だね。想像出来ないし」


葉柄を持って葉をくるくると回す。


「そうだね。やっぱり五人揃わないと、学校は楽しくないね」


残りの三人がいれば、落ち込んでももっと早く立ち直れただろうなあ。瑠歌が冗談を言って、礼子ちゃんが後ろからつっこんで、ベルナルドが真面目に聞け!と言うんだ。


冗談も何も言えないけど、これ以上悲しい気分にさせないためにも笑っていよう。


「授業とかに縛られない夏休みは好きだけど、学校も楽しみ。勉強は嫌だけど、登校とか休み時間とか、帰りは楽しいし。なんか、登校が面白いっていうのも珍しいよね」


「うん、みんなで集まるのは楽しい、だけど……瑠歌には落ちついてほしいよ。来年は受験生だぞ……。瑠歌のことはともかく、僕も学校なら家のことに縛られないからいいね」


貴島は、家でも学校でも何かに縛られているのか……貴島の悩みは家のこと?


「そうだね。親と喧嘩した時とかは安心するよね。いつもは家の方が安心するのに」


夏祭りの後、学校が無いから逃げられなかった。
五人で笑って、嫌なことは忘れたかった。


「あっ、宿題終わってない状態での学校は地獄だから、終わらせないと。逃げ場が地獄って笑えないからね……」


「地獄か……。僕は大丈夫だ。一言日記以外は中旬までに終わる予定だけど……親奈は?」


中旬?宿題って後半に終わらせるものじゃないの?


「なんとか二学期までには終わらせるよ」


帰ったら宿題しないと。
今の調子だと、この言葉が嘘になってしまいそうだ。


その後もぐだぐだと夏の木の下で駄弁っていた。何のために来たのかわからない。


「あの日、君はこんな気持ちだったのか」


貴島が突然立ち上がる。


「え?」


「十時半までに帰れと言われていたんだ」


きっと、何か約束があるんだ。それ以上外にいると暑くなるから、とかではない。


「そっか。じゃあ……またね」


貴島は不安そうだった。貴島の手を包んで、力を籠める。


「無事を祈るよ」


これだけしか言えなかった。
貴島は下に停まっていた車を見ると、急いでここから離れる。


枝の隙間から、普通の住宅街に似合わない高級車を見ていた。
貴島の隣には、いつもの穏やかな執事ではなく、厳しい表情の人がいた。