なんかいろいろ卑怯だっ!

「……じゃあ、帰る前にちょっとだけ花火を見ようか。綺麗に見えるところを知っているんだ」


ちょっとだけ、か。きっと帰れないだろうね。
手を引かれ、木が茂る場所に連れていかれた。


「階段?ここより高いところがあるんだ……」


「そうなんだよ。木で隠れてしまうから知らない人も多いんだ」


正面から見たら見えるのに、違う方から見ると木で隠れてしまう。入る人を選んでいるみたい。
公園をよく見ていないと気付かない。さっきまでの私も、他に目的があったからよく見ていなかった。


ぎりぎり二人で上れる幅だ。
上り終えると、世界が一番広く見えた。視界を邪魔する建物も無い。人も見えない。嫌なことがどうでもよくなる、不純物を取り除いた世界。


「始まった……」


二人の声が重なる。
人混みの中で見上げていた花火が、完璧に見えている。ここから見えないものなんて無い気がしてくる。
花火の音しか聞こえない。


「綺麗だね」


川に降り注ぐように消える花火。ほんの少しの時間で、人々の目に姿を焼き付ける。


「今まで見てきた中で一番綺麗な花火だ」


私もそう思う。
どんどん打ち上げられて、消える。あと一つで、あと一つで帰ろうを繰り返す。


やっぱり帰れない。


「悪いことをしてしまったね」


「貴島を巻き込んじゃった。もう宿題やらなくてもこのままずっとここにいても同じだ」


なんの取り柄もないから真面目にしている私はいない。
不真面目になってしまったから、この際徹底してやろうかな。


「もう一つ悪いことをしてしまいそうだ」


「いいんじゃない?怒られる前に好き勝手しちゃお」


そう言って笑っていると、貴島が私に一歩近付く。


貴島の表情は真剣で、ちょっとしたイタズラじゃないことがわかる。
二人の顔が近付く。もう私、ここで死んでもいいかもしれない。



「やっぱり……それは駄目だ」


直前で離れた。唇を噛み、そっぽを向く。


優しいね。でも……私はしてくれてもよかったのに。少女マンガの最強技。


お祭りでおかしくなっただけじゃないんだよ?


何も言わず、暗い道を歩いていく。


「貴島、ここまででいいよ」


「どうして?僕が花火を見ようって言ったから遅くなって……」


「私が帰りたくないって言ったから。それに、遅くまで貴島と二人でいたって知られたら、もっと怒られる。ほら、貴島も早く帰らないと、帰ったら雷が落ちるかもよ?」


大丈夫、また七日に会えるから、今日はここまでにしよう。


「確かにそうだ。知られたら、親奈も危ない」


「でしょ、さよなら」


手を振って、走り去る。お母さんに二人でいるところを見られなければ大丈夫でしょ。


夏祭りは、一番甘かったけど、後味は苦かった。