「早霜さん!」


「……貴島?」


目を覚ますと、貴島が……


「ヒッ膝枕!?」


「ごめん嫌だったかな?」


私が声を上げるまでの一瞬、貴島の顔は真剣そのもので、私のことをしっかり見ててくれたのがわかる。緊迫感があって……貴島の色白く滑らかで、眩いとさえ思ってしまう肌に影がさしていて、いつもと違う鋭さを感じた。


不覚にもドキッとしてしまったけどなかったことにしょう。
とにかく。そんな風に助けてくれて、申し訳なさそうに私の顔を覗き込む貴島に、嫌だったなんて言えない。


側にはペットボトルの水やエチケット袋まで用意されていた。今度こそ三重さんに殺される……そう思ったけど、オレンジとベルナルドで上手く隠れていたらしい。


「あの……何か布とかある?」


「あるけど、もしかしてまだ体調が優れない?それなら先生に……」


「下りる時に使う」


貴島が乗ってたボートに私も乗っていたと知られたら、何されるか分からないので顔を隠して下りることにする。


「貴島君が下りてきた!」


「あの外国人だれ!?めっちゃかっこいい!」


ベルナルドが女子にウィンクすると、キャーと女子が騒ぎ始める。もちろん貴島もいろんな女子に写真撮られたりしている。


「こらー錦柑子(にしきこうじ)!ラジコンを学校に持ってくるな!」


「ちぇー」


瑠歌はヘリコプターをボートに飛ばそうとしたが、リモコンも置いて来いと言われ、仕方なく置きに行った。


「錦柑子さんは何も無いね」


「うん、恋とか興味なさそう」


瑠歌は敵と判断されなかった。いいなあ。何で私はあんなことになるんだろう。


「ねえ、あの人誰?」


「分かんない、そもそもここの生徒?」


「あれ護送船だったの?」


大きな布を被り、とぼとぼと歩く姿は多くの人が怖いと感じた。それを見て先生が血相を変えて飛んでくる。


「お前誰だ!ここの生徒か!?まさか護送中に逃げた容疑者とかじゃないだろうな!?」


「断じて違います!怪しいものではございません!」


私は前が辛うじて見える程度の隙間を握りしめ、正体がばれないように甲高い声で話す。それを見た生徒は吹き出した。瑠歌は死にかけの蝉のようになっている。


「何なんだ一体!まさか錦柑子がラジコン使って逃がしたとかじゃないだろうな!?」


「断じてヒィwww違いますぅwww」


瑠歌は笑いすぎて呼吸が出来なくなっている。見ている生徒の腹筋も限界になってくる。先生の脳の血管も限界だ。


「……とにかく職員室に来い!」


「ヒエェー!」


こうして私は遅刻してないのに怒られることになった。