「早霜さん」


「あーはい。案内ですね」


とうとうこの時間がやってきた。私の席のそばにやってきた貴島のキラキラした笑顔を見ると断れない。
そして貴島と連れ立って教室から出た。


「廊下……うちのクラスの隣は5組と4組……」


適当にやる気なさそうな感じで説明する。変にはりきったら女子から恨まれる。そうして適当に案内しているうちに、手遅れだが名案が思いついた。


避難経路の紙が教室に貼られている。それで覚えてと言えば他の女子が、それじゃ分からないよー、おいで私が案内してあげるとか言ったかもしれない。
そうすりゃ万事解決だったのに何で私は律儀に案内してるんだろう……。


そのまま時は流れ、屋上の近くに来た。


「屋上だけど……普通は入れない。これでおしまい」


「ありがとう。助かったよ」


適当にやったのに文句を言わなかった。
いつの間にか、貴島の後をついていた女子が減っていることに気がついた。


「おー貴島、何やってるんだ?」


担任の当坂先生が来た。


「学校案内をしてもらっていたのです」


「えっ今朝はもう覚えたからいいって言わなかったか?」


「覚えていたのですが……早霜さんの言葉で案内してほしくって……」


貴島は心底嬉しそうに笑っている。バカァー! やめろ貴島! 明日からカミソリレターじゃないかああぁ!
私の頭の中は危ない予感に満たされ、体はギクッと硬直してしまった。


「早霜さん、授業がもうすぐ始まるから一緒に……」「いえ遠慮します。お気に入りの道があるので」


「じゃあ僕もその道……」


うわあめんどくさ。貴島の言葉を最後まで聞くことなく、これをどうやって振り切ろうと思った時、三重さんが私に用事があると言ってきた。貴島は他の女子に連行され、困惑した様子でこの場を去った。


助かった……えっでも三重さんは2年女子のリーダー格……やばい、終わった。

「あんた貴島君の何?」


背の高い三重さんが私を見降ろして言う。


「な、何って……ただのクラスメイトですが……」


私は蛇に睨まれた蛙のようになってしまう。きっと三重さん達から見る私は、脂汗をかくへっぴり腰だ。あああ、誰か助けてええぇ!


「ふーん、まあいっか。今度何かあったらどうなるか分かって……」「はいすみませんでした!」


全て言い切る前に私は高速で謝った。その意気地のなさに取り巻きの女子たちが笑う。
やっと解放された時チャイムが鳴った。
頭がよくない分、着席とかはしっかりしていた私は、成績も終わった……もう嫌だと思いながら廊下を走った。