「よかったな太っちょ。イケメンが隣で」


 男子のリーダー的存在の(ただ ひびき) 蛇打 緋毘騎が一時間目終わりの休憩時間にそう言ってきた。
 太っちょとは私のあだ名で、身体測定の時ふざけて誰かが早霜43kgだってー俺2gwww とか言ったことでつけられた。ちなみにこのあだ名で呼ぶのは男子しかいない。


 本当はこのあだ名で呼ばれるのは嫌だけど、嫌って言ったら早霜の癖に生意気だとか言われて面倒だし黙ってる。


「全然良くないよ」


 私がそう言うと女子たちの何人かが何でと聞いてきた。


「僕も知りたいな。何故良くないのか理由を言っておくれ」


 咄嗟に、イケメンだからやっぱり嫌がられたことがないのか、しかも私みたいな女子に嫌がられたのが不満なのか……と推測したけど、落ち着いて脳内再生すれば貴島の声は穏やかそのもの。顔にも悪意はなく、興味深そうに私の目をじっと見てくる。
 やめてくれ……女子の反応が怖いんだ!


「それと、蛇打君。レディに対して失礼なことを言うなよ」


「はあ!?」


 蛇打は顔を真っ赤にして、どういうことだよと貴島に突っかかった。しかし、私の顔を見た時からは想像できないくらい冷たい目で見られた蛇打は黙って去って行った。


 それにしてもレディって……もっと可愛い子に使う言葉だよ。
 女子の視線が怖い。蛇打も何言ってくるかわからないし……。


 でも、あんな風に私がいじられるのを止めてくれるなんて。
 珍しい男子だ。ちょっと嬉し……くないこともない。


「あの……さっきの事だけど……別に嫌いって訳で言ったんじゃない。好きでも嫌いでもないから」


 出来るだけ目を合わさないようにして言った。
 関わりたくないからといって嫌いと断言するとまた面倒なことになる。


「そっか」


 貴島は短く返事した。これでもう、この問題は解決する……そう思ったが……



「早霜さん、よければ次の休み時間に学校を案内してほし」「悪いけど私忙しいんです!」


 高速で違う方を向いて言った。学校案内なんかしたら明日の靴箱にカミソリレターだ。


「……今日用事無いよね?」


 何を根拠に言ってるんだ? と恐る恐る振り返ると、真っ黒な貴島の目には、私しか映って無かった。こっちをずっと見ている。怖いこの人。本当は用事無いってなんでわかったの!? 落ち着け私、ハッタリの可能性も……。


 しかし、あの怖い目には逆らえなかった。


「……わかりました」


 女子からの視線が痛い。休み時間なんか来なければいいのに。