なんかいろいろ卑怯だっ!

楽しかった時のことを思い出して、寂しくなった。


何とかして繋ぎ止めたい。淡い初恋で終わらせたくない。
皆が言う、初恋は実らないなんて通説に逆らいたい。


入り口から入ってくる冷たい空気は私を焦らせる。春になってもこのままだったらどうしよう。


青い春はおあずけ、なんて嫌だ。
会いたいよ、貴島。


修了式は終わったけど、二年生は体育館に残る。来年は三年生になるので、大事な話があるという。


多分進路の話だ。
中学生でいられる時間は短い。なのに、私たちは恋を我慢している。
青い春を誰かが望む通りに消費しようとしている。


そうだ、恋を禁止することは誰にもできない。


お互い助け合っていたんだ。この気持ちは夢を邪魔しない!


「貴島!」


「親奈……!?駄目じゃないか、こんなところで……」


「ねぇ貴島、付き合ってから、成績は下がった?何か悪いことが起きた?私の方では起きてないよ。むしろ成長できた。貴島は本当に、恋が夢を邪魔すると思う?」


盗聴機も怖れず、思ったことを言った。


「それは……うん、邪魔するとは思ってないよ。けど……もういいや!」


貴島は立ち上がり、私の手を取る。



「僕と一緒に、ここから逃げよう」


私はもちろん頷いた。


「おい早霜!何するのか言えよ!クラスメイトだろ?」


蛇打が前に立ち塞がる。
何をするかなんて具体的に決まってないし、お前に教える筋合いはない!


蛇打を突き飛ばし、体育館から出た。


やった、と油断した私は、足元の石に躓いた。


この時、扉を閉めるために手を離していたから、貴島は大丈夫だ。
私の膝からは血が出てるけど……。


じくじくと痛みを感じる。


もうすぐ先生が来る……!でも、痛くて立てない。


「傷は後で洗うから少し我慢してほしい。大丈夫、絶対逃げ切るよ」


貴島は私を横にして抱き上げた。
これは、お姫様抱っこというやつだ……。テレビや漫画で見て、憧れているだけだった。まさか現実になるとは……!


先生が来る前に体育館から離れ、武道場裏に来た。


「ごめんね。早く終わらせるよ」


蛇口をひねった。冷たい水が傷口にしみる。
洗った後は絆創膏を貼った。


「変なこと言ってごめんね。二年生最後の日くらい、二人きりになりたかったんだ」


「謝らなくていい。……僕も、大切なことを話さなければいけないから」


大切なこと?別れよう、とかじゃないよね!?
まだ何も言われてないのに泣きそうになる。


「転校することになった。お父さんに言われた通り、親奈から離れていると言ったけど、聞いてくれなかった。学校の評判が悪いから通わせたくないらしい」


職員室で、評判が悪くなっているという話は聞いたことがある。
ゲームセンターで問題行動を起こしたり、車道まで広がって歩いたりする生徒がいるから。


「でも、こっそり会っていることには気付いていないらしい。だから、学校が変わっても休みの日に会いに行くよ」


「うん。また会うの楽しみにしてる」


「……一つ、お願いしたいことがあるんだ」


「何?」


貴島は私の頬に手を添わす。


「言わなくてもわかる。……いいよ」


やっと、少女漫画の最強技にたどり着いた。