帰りの会が終わり、遂にこのときが来た。女子の目を気にしながら、無事に帰れることを祈り理科室近くの花壇に向かう。


貴島は先に来ていた。私の姿を認めると、人の目を気にしていた。


「何か気になるの?」


「え、ああ、あまり人に聞かせるものではないからね」


そうは言っても貴島がいると自然に人の視線が集まる。普段は人の少ないここでも貴島を追ってか女子が集まっていた。
それにしても人に聞かせるものじゃないって……まさか本当にあれなんじゃ。


「ええ……それって危ないことだったりする?変な話じゃないならこそこそしてるとあらぬ誤解を受けそうで……どうしてもって話なら別だけど、潔白を証明した方がいいんじゃないかな……」


私にナイフを当てるという話ならこれで回避できるだろう。そう思いながら提案すると、そうだね、この際知らしめようと言った。


え、自分の危険趣味を?やだ身の危険は回避できてなかった!?非行少年になることを恐れず公開ナイフ当てなんて大胆だね。あ、貴島の家はお金持ちだからもみ消すのか……。


強い風が吹いて桜の木がざわざわとする。
貴島は風が落ち着いてから、深呼吸した。



「君のことが好きだ!」


衝撃的だった。貴島の言葉は、大きな弓から放たれた矢のように私の心を貫いた。この一撃で私は何も考えられなくなる。


「僕と、付き合って下さい」


貴島は私だけを見て言った。また風が吹く。桜の木や花壇の花が私の答えを急かす。後ろから見ている女子たちが気になる。出会って三日は早いと言いたくなったけど、そんなこと言える空気じゃない。


人の目を気にして色々なことから逃げてきたけど、もうそろそろけじめをつけるときだろう。しっかりしろ、私。


「はい!喜んで!」


周りにも聞こえるくらい大きな声で言った。
今まで私は、いじめられたくない、嫌われたくないと思って自分の気持ちを言わなかった。嬉しくても嬉しくないと言ったり、嫌なのに嫌だっていえなかったり。


でも今日から、自分に正直になれそうだ。私がいじられたら庇ってくれたけど、みんなに優しいからだと思っていた。でも堕天紳士って言われて怒ったのを見て表面を繕わない人だとわかった。

みんなが私を嫌っても貴島はそれに流されないって思えたから。周りが何と言おうと貴島と一緒にいてやる!


「おめでとう、お前ら!幸せになれよ!」


先生が理科室の窓から顔を出して言った。


「ちょ、先生!」


見られてたのか……ちょっと恥ずかしい。


「帰ろう、貴島!」


先生はもうほっといて撤退だ。後ろから女子の話し声が聞こえる。泣いている女子を、早霜さんよりえりちゃんの方が可愛い、また違う人探そうと励ます女子。抜け駆けするなんてと怒る女子。いろいろだ。


校門を出たところで貴島が手を繋いでくる。私は周りの目を気にしないでそのまま歩いた。