次の日から、台本を読みながらの練習が始まった。


「いじめられていい人間なんていないのよ!私がそれを証明する!」


五月雨さんは流石に上手だなあ。五月雨さんの少しオーバーな演技は苦手な人もいて、選ばれた時も賛否両論あったけど、ドラマではなく観客から離れたステージだ。このくらいの方がわかりやすい。


「本当……?」


いつも演技しているようなものだからか、気弱ないじめられっ子も演じることができている。
五月雨さんより自然で好きと言っている人もいるけど、本性を知っているから自然とは思えなかった。


貴は登場していても無言でいるところが多い。だからといって適当な行動をすると止められる。
貴と交渉する場面になった。


「貴君、これならどう?ブラックサンダー二週間分」


「よし、それでいこう。面白そうな上ブラックサンダーも貰えるなら、頑張るしかないな」


「はい、カット。貴、もう少し嬉しそうに!」


「はい」


十分嬉しそうにしていたけど。重大なお願いと聞いて身構えるところからの、ブラックサンダーでパッと輝く切り替えの自然さ、良かったと思うけど。


先生の指導に文句があったけど口には出さない。
カットを食らう内に、貴島が普通の男子っぽい話し方になっている。陽キャとか言われる人たちの……。


新鮮だけど、いつもの落ち着いた貴島が好きなんだ。
先生はわかってない!


私は最後まで違和感や言いたいことを隠していた。
私が監督やりたいくらい。