体育館に入ると、ステージの前に座らされた。
担当の先生の中には、担任の当坂先生がいた。
当坂先生が台本を配る。


「雪解け」
それが題名だった。
ペラペラとめくり、大体の内容を確認する。


雪の日、主人公の朝美は運動場にいる女子を見つけた。
その女子はいじめられている弥生だった。
弥生は雪の中に上靴を隠され、絶望していた。


朝美は弥生を救おうと奮闘する。人気者の貴も朝美に協力し、最後は弥生といじめっ子の誤解が解ける。


人気者の貴が貴島にそっくりだ。転校生とか、成績優秀とか……。
狙って書いたの?


「今からステージに出る人を決める。出たい人は、希望する役の下に名前を書いてくれ」


えーどうしよう、と迷う女子の声が聞こえてくる。
言ってみただけの人と、どうせ出る人がわかる。


真っ先に立ち上がり、主人公の朝美を希望したのは五月雨 結(さみだれ ゆい)さん。
五月雨さんは一年生の時も劇に出ていた。ハキハキと喋り、ダンスや歌が得意、小さい頃からステージに上がることが多かったらしい。


そして、弥生役を希望したのは佐屋 由利香(さや ゆりか)さん。
三重さんと仲が良くて、裏表のある優等生だ。


他に希望する人はいなかったので、朝美役と弥生役は決まった。


後は貴役と、その他の登場する時間が短い役だ。


「誰もいないなら先生が適当に決めるぞー」


そう言っても希望する人は出なかったので、先生が全体を見回す。


「田中、お前男子その一でいいか?」


「えっ……あ、はい」


こんな風に決まった。
貴役に選ばれるくらいならと、絶対にやりたくない男子たちがその他の役に殺到する。


「よし、じゃんけんで決めろ。じゃあその間に貴を決めようかな……」


残っているのはじゃんけんが面倒だった男子と、貴島だった。
何となく、貴島は選ばないでほしいと思った。嫌な予感がするけど。



「貴島、お前やってくれるか?」


「はい」


あ……まあ、断る理由もないしそうなるよね。
大丈夫、佐屋さんが何かをしてくるとは限らない。五月雨さんは噂によると彼氏がいる。


これは友情の大切さを伝える話だ。そう、恋の危機なんてのは起きない……。