その時、隣で勝手に話を聞いていたその先輩営業が、私に向かって言った。
「尾崎さんは、媚ませんね」
「はい?」
私は書類を鞄に仕舞いながら聞き返す。媚びる?何のことだ?
すると先輩営業は苦笑しながら言ったのだ。
「前に一度ここに出入りしていた保険屋さんの女の人は、やたらと露出した格好で来て、やたら滅多ら体に触って来たり、飲みに行きましょうって誘う人だったんです。それで俺たちの仕事に支障が出るし、お客さんの目もあるからって店長が出入り禁止にしたことがあって」
・・・あらまあ。私は目を丸くする。でもまあ、確かに女であることを前面に押し出して営業活動の手段とする人はいる。
「・・そういう人も、いるでしょうねえ」
無難にそう答えておいた。下手なことはいえないし、その人と私は違うってだけだ。
先輩営業は続けた。
「尾崎さんは外見も堅そうだから店長もオッケー出したんだと思うけど、説明聞いててもデメリットもちゃんと言ってましたね。それが珍しいなあと思って」
私も苦笑した。
「元々証券会社で投資信託を扱ってましたから、その癖が抜けてないんです。上司にはあまりデメリットばかりを言うなと叱られますけどね」
「俺はそれでいいと思いますけどね」
それからは営業同士でこんなやり方があるとか、こんな面倒臭い営業がいた、などの話で盛り上がった。前で新人君は興味深げに聞いていたし、その内他の営業さん達も会話に入ってきて更に話が盛り上がった。



