あ、そうだ。

 閃いて、私は職域の前に駅前の不動産へ向かう。

 どうせ部屋探しをするなら――――――――営業に、利用しましょ。

 寒さでかじかんだ指をさすって、ついでに頬の筋肉もムニムニと触りまくって柔らかくする。営業スマイルが強張っていたら台無しだ。

 何せ、今から突入するのはあちらもプロの営業マンで接客業。笑顔で負けてたら話にすらならないはず。

 ドアの前でコートもマフラーも脱いで腕に持ち、名刺入れを手に持ってドアを押した。

 カランと鈴がなり、不動産屋の男性営業が数名椅子から立ち上がる。

「いらっしゃいませー」

 元気がいいな。店の中を見回すとちょうどお客さんもいないようだった。

 私はにっこりと営業スマイルを顔中に浮かべながら、口上を述べた。

「こんにちは!お邪魔いたします」


 予測した時間通りに不動産屋を出て、職域に向かった。

 ホクホクしていた。狙いが当たったからだ。

 不動産屋への飛び込みをしてみた結果、店長さんに出入りの許可を貰える事になった。自分の顧客で部屋探しをしている方がいらっしゃったら優先的に紹介するという条件つきで。

 そんなことならいくらでも出来る。実際独身のサラリーマンは、若ければ若いほど部屋を探している人も多いのだ。

 毎日会う生命保険の営業が紹介するのは近道となるし、自分の保険の担当者ならまだ信頼もあるものだ。