無駄にデカイ建物の、これが弊害だ。

 早く会社に戻りたいんだってば!一人、心の中で呟く。

 その時、混雑したエレベーターホールで後ろから声がした。

「尾崎さん、お疲れ様です」

 パッと振り返ると見上げる長身。その上に乗った愛嬌のある顔で、同僚の平林さんが笑っている。あらら―――――・・・

「あ、お疲れ様です。研修終わったんですか?」

 私も笑顔を作る。

「はい、やっとさっき。尾崎さんは今帰社?」

 平林さんの問いかけにそうですと小さく頷いた。

 この平林という私と同じ年の同僚は、成績で言えば私の遥か上を行くスーパー営業だ。もう雲の上。同じ営業職だって口にするのもはばかれるような成績の違い。

 しかし、偉そぶったところが一つもなく、誰に対しても公平に愛想よく接する。軽やかに会話をしてその場を和ませる。

 ぎすぎすしがちな金融会社の営業部において、そのような人材は貴重だった。

 転職して以来周りと一つ壁を挟んで接するようにしている私でも、彼の前ではつい壁の構築を忘れてしまうときがあった。それほど人懐っこい人だった。

 ただし、今は出会いたくなかった。こんな、他の会社の人たちもわんさかいるエレベーターホールでは。

 私は引きつらないように意識して笑顔を作る。

 今は会いたくない人物、なぜならその理由は――――――――