固まる私の上にまた彼の低い声が降って来る。

「尾崎さんはもっと食べた方がいいですよ。今のままだと、抱き心地が悪そうだ」

 そう言って、恐ろしく綺麗で柔らかい笑顔を見せたあと、呆然とする私の全身を見回し、高田さんは行ってしまった。

 私は道に突っ立ったまま、しばらくそのままで動けなかった。

 言葉が頭の中を回る。

 見てしまった強烈に格好良い笑顔も頭の中を回る。

 煌いた瞳、きゅっと上がった口の端、高い鼻梁。髪が首筋で揺れていた。最高にセクシーな顎のライン・・・いやいや、それよりも、それよりも、そんなことよりも。

 ・・・何て、言った・・・?あの人、今。

 えーっと・・・・。


 だ。

 だ、だ、だ・・・


 抱き心地が悪そうだとおおおおー!!??


「・・・はあーっ!?」

 あのセクハラ野郎ー!!頭に血が上ってムカついた私はコンクリートの塊をヒールで蹴っ飛ばす。勿論それには敵わなくて、足が痛んだだけだった。

 ・・・学習した、地球に喧嘩を売っても負ける。

 だけど久しぶりにマトモに活動した胃袋はエネルギーを生み出し、私はその日の午後、ミスター無愛想の高田に与えられた怒りも手伝って、えらく精力的に営業活動が出来たのだ。