私はついじっとりと入口の方を見詰める。その間にも、高田さんは店の人に注文をしていた。

 店の女の子の高い声が耳に入る。その声に少しばかりの媚を感じ取って、私は少しだけ混乱が冷めた。

 置いていかれたものは仕方ない。大人でしょう、私、現実に対処しましょう。

 気を取り直して目を上げると前に座るのは支社内ナンバーワンと謳われる美男子。・・・おかしいな、なぜこんなことに?やっぱり無理か、平常心は難しい。

「食べて下さい」

 また静かな低い声が聞こえた。

「え?」

 私が顔を上げると、高田さんは私の前に置かれたままの料理を長い指で指す。アーモンド形の綺麗な黒い目にじっと見られて、言い返すことも出来ずに私はピザを口に運ぶ。

 いやあだって、整った顔って迫力あるんだもん。

 カリっと生地が音を立てる。薄く焼かれた生地にはたっぷりのチーズ。もう既に冷めかけているのに、それはとても美味しかった。

 ・・・美味しい。・・・え、美味しい?

 もぐもぐと咀嚼しながらぼうっとピザを見る。美味しいなんて、久しぶりに思ったな・・・。これはビールのせいなのかな。それとも久しぶりに人と食事をしたからかな。ほんのりと甘いピザの生地がまた味わいたくて、手を伸ばす。

 相手も無言だったけど気詰まりな雰囲気ではなかった。超絶美形な上に細身とは言え大きな男性であるのに、高田さんからは私が勝手に恐れていたような、想像したほどの存在感を感じなかった。彼は、ただ静かにそこに居た。

 だから私は全然ドギマギすることなく、気がついたらバクバクと料理を食べていた。