確かに無愛想な挨拶をしたはずだ。新人ばかり並べられて、朝礼台の前での挨拶では。でもそんな風に思ってた人がいたとは知らなかった・・・。

「危なげな感じ。今にも壊れそうな―――――・・・。極度に緊張して自分を保っているような。以前の平林と同じだと思った。笑わないんだろうか。この人が笑ったらどんな顔をするんだろうか。真正面から見てみたい、そう思ってました」

 そのまま優しい瞳で私を見ている。彼の静かな声は私の耳から心まで、ゆっくりと、でもしっかりと浸透する。

「だけど、稲葉のお陰で気付けた。俺は彼女が好きなんだと。興味があるってレベルじゃないんだって。それからは、必死でしたよ、尾崎さんと接点が何もなかったから」

 ・・・必死でしたよ。言葉が頭を回る。

 彼が私を見る目の中にある優しさに気付かないフリをずっとしていた。

 目立ちたくないからと遮断して。その光を見てしまったら、壊れてしまう、今はぎりぎりだから好意を受け取ったりなんて出来ない、無理だって。


 でも多分、知っていたんだ。私も。


 静かな人だ。そして情熱的な人。この人は、こんなにも誠二とは違う。


 彼は少し考えるような遠くを見る目で言った。

「あなたが何かに傷付いているのは判ってた。だから強くはいけなかったんです。だけど・・・」

 ベッドがきしむ。彼は立ち上がる。そして2歩で私に近づく。手を伸ばして、私の後ろのカーテンを引っ張って閉める。

 そして片手で私の腰を引き寄せた。

「・・・もう、俺のものですね。今、これからは」