あ、あ、アポなんて入ってないもーん!!今日は思いっきり楽しんで、明日になったら仕方ないからまた営業頑張ろうって思ってたんだもん!そんな毎日毎日、それも複数のアポが入ってるような優秀な営業じゃないんだよ、私はー!!
だけどそれは心の中の叫びだし、やはり一応プライドはあるから彼には言いたくない。だってまだ3月分終わってないのだ。アポ0ですっていうのは悔しい。
そんなわけで真っ赤な顔のままで黙り込んだ。
暫くしてから高田さんはグラスを置いて、音も立てずに席を立つ。
私はそれを見送らないで必死で考えた。
ちょっと私、どうするのよ!?どうしたらいいの?もう、こういう時はお喋りの人の方が間がもっていいよなー!困った困った困った・・・・
ぐるぐると「困った」の文字が頭を回る。
すると戻ってきた高田さんが、尾崎さん、と後ろから言った。
「―――――え、は、はいっ!?」
体を捻って振り返ると、コートを片手に持って立つ、格好いい男の人。
またじいっと私を見ていて、それ故に金縛りにあう。
・・・・うわあ~・・・・無理無理無理。嘘でしょ、この人が私といるなんて!
彼は手を差し出した。
私は呆然としたまま、それでもその手を取ってしまう。
やっぱりあるんだ・・・絶対に、彼のこの瞳には魔力が宿っているに違いない――――・・・
手を取って立ち上がると、そのまま流れるようにエスコートされてバーをでる。
支払いが済んでいることにも気付かなかった。
それだけ頭が停止していた。



