黒胡椒もお砂糖も



 彼はゆっくりと一口含んでから、静かに言った。

「・・・そうです。ワインに香辛料を入れて温めたものですね。指先を温めたかったので」

「え、高田さん寒いんですか?」

 冷えてるならストール使いますか?と続けて言おうとして、高田さんの返事に固まった。

「いえ、冷たい指先のままであなたを抱けないでしょう」

「―――――」

 尾崎美香、化石化モード入りました。

 ・・・ちょっと~・・・もう、止めてよ~!

 私は今度は噴出さなかったけど、情けない顔になって(多分)言う。

「・・・えーっと・・・あの、これ、使うつもりなんですか?」

 これ、と言いながら彼が持つカードキーを指差した。

 ゆるく顎を下げて頷いてみせて、高田さんはまたグリューワインを飲む。グラスを下げた口元には笑みが浮かんでいた。

「嫌だったら止めときますが」

「うっ・・・い、嫌って・・・こと、で・・・は・・・」

 何を言わせるんだこんなところで!ってか私大丈夫!?本当にラリってんじゃないのー!?

「嫌ですか?」

 静かな口調でそれでもまだ彼は聞く。

 どんどん追い詰められるのを感じ取って私は無意識にソファーの上で後ずさりをする。

「いっ・・・いっ・・・嫌、では・・・」

 かと言って、うんとも言えない。

 頭に血が上って舌がうまく回らない。パニくった私は口の中を噛んでしまった。