黒胡椒もお砂糖も



 私が呟くと、高田さんは黙って案内の人のところへ向かう。そして何やら話しをしていると思っていたら、私のストールが出てきた。

「ありましたよ」

「あ、本当だ。ありがとうございます!」

 係りの男性は恭しく微笑んで、お連れ様からこちらも預かっております、と封筒を渡してくれる。

「え?」

 陶子かな?

 ちょっと驚いてつい封筒を見詰めてぼーっとしていたら、高田さんがストールと封筒を受け取った。

「尾崎さん」

「・・・え?はい?」

 ハッとして見上げると、彼はさっきまで私たちが飲んでいたソファーを指差す。

「折角だから、少し飲みませんか。体も冷えてるし」

「あ、そうですね。はいはい」

 では、と案内されて、また同じ席に座った。

 そうだよね、私はしこたま飲んでるけど、彼はまだご飯も食べてないんじゃないかな・・・そこまで考えて、彼のスーツを引っ張る。

「あの・・・ご飯食べました?先に食べますか?」

 少しだけ振り返って高田さんは首を振った。

「大丈夫ですよ。空腹ではありませんから」

 あ、そうですか。私は肩をすくめて後ろをついて歩く。

 ソファーに座って注文したところで、高田さんが封筒を渡してくれた。私はそれを開けて、このホテルのマークが入った上質なメッセージカードを開ける。

 そこには陶子の細くて流れるような文字があった。

『おめでとう、美香。幸せ掴んだわね。これはプレゼントよ!ストールを取りにくるだろうと思ったから用意したの。代金は気にしないでね、お宅のスーパー営業さんもちだから!』