ふう~・・・あっついあっつい!わああ~私ったら何てことしてしまったのよ~。ここ事務所じゃないのー!
私は両手で真っ赤になった顔に風を送って、立ち上がった。
「あ、どうぞ高田さんは残業を続けて下さいね。私取りに行ってきますから」
むしろ私を一人にしてくれ。今はすぐにでも冷たい風にあたる必要があるのだ。そしてこの沸騰中の脳みそを冷やさなきゃ――――――――
だけど既にパソコンの電源を落としながら、高田さんはアッサリと首を振る。
「残業の必要なんてないんです。3月分終わってますから」
正直な私の顔は引きつった。・・・ムカつく。ああそうかよ、もう終わってるのかよ!って叫びたかったけど、ぐっと唇を噛んで我慢した。
私は腰に両手をあてて、着々と帰り支度を続ける彼を睨んで見下ろす。
「・・・残業が嘘だったってことは、もしかして営業辞めるのも嘘ですか?」
彼はちらりと私を見る。
「いえ、それは本当です。だから、もう俺の営業の仕事は本当に全部終わりました。あとは保全が少々あるくらいで」
くっそう。憮然とする私の前で実にスマートにコートを着て、高田さんは振り返った。
「行きましょうか。まだ平林もお友達もいるかもしれませんよ」
・・・あ!陶子のこと忘れてた。
都合よくエレベーターホールでは自社の人間に出会わなかったので、二人で立っていても平常心でいられた。
・・・いや、とても平常心とは言えないか。私の頭は大量のアルコールとお洒落マジックと、いきなり突入した恋愛モードと罠にかけられた怒り、隣に立つ男性の存在で完全にラリっていた。



