もう、ぐうの音も出ない私だった。

 ただ悔しくて膨れる。こんなに彼の思い通りなんてムカつく。機嫌を損ねた私を、長い足を使ってキャスター付き椅子ごと引き寄せた高田さんは苦笑した。

 至近距離で向かい合わせになると彼が少し屈んで目線を合わせる。

「・・・せっかくとても綺麗なのに、怒らないで下さい」

「うるさい」

 私は混乱の極みにいたのに、バカ男。

「謝ったら許してくれますか?」

「うるさい」

 ヒールでここまで走ってきたのに、バカ男。

「・・・尾崎さん」

「うるさい」

 もう、私ったらバカみたい――――――――

 彼の手に力がこもる。不機嫌にそっぽを向く私に、ヒョイと顔を近づけた。

 ―――――――え、ちょっと待っ・・・・


「では」

 すごく近くで高田さんの静かな声がした。

「・・・話すのはもう止めましょう」

 そして頬に手をあてて、彼は私に口付けをした。


 きゃあ。


 心の中でそう呟いた。