「私の仕事でそれをいかすのはちょっと難しそうだけど、でもいい手ですね。大体メリットはともかく、デメリットも言える営業って少ないのよ。デメリットを見つけようと思ったらそれなりに勉強しなきゃでしょ。でも会社の研修では悪いところは教えてくれないものよね」
私は頷いた。確かに!あまりにデメリットの説明がないので、研修中に聞いたことがあるのだ。デメリットも教えて下さいって。すると研修の講師にきていた商品開発部の人に嫌な顔をされたことがある。
証券会社ではデメリットの説明は絶対項目だったので、私はえらく驚いたものだ。
保険会社、メリットしか言わないの?って。それっていいの?大丈夫なの?って。
だから私は、個人的に勉強して見つけたデメリットをクロージングでは言うことにしている。だけど高田さんみたいに3つ見つけようと思ったら、それは結構な努力が必要なはずだった。
ふう、と息を吐いて私はキールを口に含む。甘い香りが口の中にも広がって、それにうっとりする。
だけど、やっぱり聞いててよかった。高田さんのようには到底出来ないとは思うけど、それほどの勇気をもって営業にあたるべきだって判ったし――――――――
私がそんなことを考えながら夜景を見ていると、平林さんがちょっと姿勢を崩してリラックスしながら、のんびりと言った。
「・・・だけど、もうあの沈黙営業も見られなくなりますよ」
――――――――うん?
私は夜景から平林さんに目をうつす。私の横では陶子が同じことをしているのが窓のガラスにうつっていたはずだ。
「見られなくなる?」
つい言葉になった疑問に、彼は私を横目で見る。



