黒胡椒もお砂糖も



 昔みたいに、死んだらこれだけ、入院したらこれだけ出ます、では終わらないのだ。

 それでは時間もないし、お客さんも飽きてダレてしまう。

 メリット3つにデメリット3つだけ。それは大変シンプルで、判りやすい。

 ふむ、と私は考え込む。ああ、酔っ払ってない時に聞きたかったわ、これ。メモ帳も持ってないしな・・・。

 平林さんは指を3本立てて、私を見た。

「先にデメリットです。その後メリットを3つ。だから私はあなたにこれをお勧めするんです、という説得力が生まれるためにはそうするしかない。お客さんの頭の中でもいい印象だけが残る。そして、この次が高田にしか出来ないんですが――――――」

 私は彼を振り返る。平林さんはにっこりと大きな笑顔を見せた。

「・・・黙るんです」

「――――――それだけですか?」

 肩透かしを食らったようで私は力が抜けてしまった。・・・何だよ、それ。何かのオチ??

 だけどそこで後ろから陶子が口を挟んだ。

「・・・それって難しいわよ、美香」

「陶子?」

 並んで座っている為に、私は今度は体を陶子へと向ける。

 彼女は目を細めて考えながら呟くように言った。

「普通、営業は断られるのを怖がるためにマシンガンのように話してしまうものでしょ。沈黙は怖い。下手に客に考える時間を与えて断られるのを避けるために、結論を急かしてしまうのはよくあることじゃない」