そんなわけで、ケラケラと楽しげに笑う陶子を睨みつけて、私も化粧直しに立つことにした。

 くっそう!これでもし平林さんが高田さんを連れてきたら急な腹痛を起こして逃げてやる!うっ・・・とか呻いてくずれ落ちてやるぞ!ベロベロではないにせよ、既に結構な量のカクテルを飲んでいるのだ。羞恥心なく大演技をしてみせる。

 そんなことが・・・あり得るから怖いわ、そう思いながら洗面台の鏡を見る。

 浮いてきた油をおさえ、ルースパウダーだけを薄く付け直した。気合入れて化粧したのも久しぶりだから、いつもより長い睫毛が気になって仕方がない。

 グロスを塗ろうとポーチから出しかけて、そのまま止まる。

 ・・・・平林さんを迎えるのに頑張ることないでしょうが。

「ない。・・・そうよ、ないっつーの」

 ぶつぶつと呟きながらグロスはそのまま仕舞った。どうせまたお酒を飲んだらとれてしまうのだし。

 髪の毛をチェックして、席に戻る。

 陶子はチーズのほかにストーンチョコも追加していて、それを齧って微笑んだ。

「今日のあんたは本当に綺麗よ。その平林さんて方が高田さんて方も連れてきてくれたら嬉しいのに」

 こら、陶子―――――――そう言いかけて、私の後ろから飛んできた声に固まった。

「残念ながら、高田は残業です」

 パッと振り返ると、案内されてきたばかりの平林さんが微笑んで立っていた。

 お酒の影響と、薄暗いバー、その舞台設定も手伝って、いつでも堂々としている平林さんは益々存在感を放ってそこに立っていた。