既に諦めモードだった私は、大人しく高田さんの黒いセダンに納まった。もうこうなったらとっとと弁償して頂いて、家に帰ろうと思ったのだ。そして部屋中を暖めて、アールグレイの紅茶をいれ、シュガードーナツを大量に食べて至福の午後を過ごそう!って。

 というわけで、私は空想の世界で幸せシュガードーナツ摂取に没頭していたので、ずっと無言だった。

 だけれども本人も無口な高田さんはそれが苦じゃないらしく、そのまま平然とどこかへ運転して行く。

 あ、そうだ、別に車乗らなくても駅前でカラコン買えたじゃん、と思い当たったのは、もう車が発進して10分は経った頃だった。

 空想世界で3つ目のシュガードーナツを食べていたのを頭を振って追い出した私は、助手席で周囲を見回した。

 ・・・えーっと、どこに向かってるのかしら。

「あのー、高田さん?一体どこに向かってます?」

 今更だけど。

 目を凝らして景色を見ながら私は聞く。あのビルみたことあるな。ということは、ああ~、あの辺りを走ってるのか。

 運転席からは静かな声。

「昼食の調達です」

 ―――――――はあ、昼食の、調達・・・・。って、え?

「いや、あの!私は弁償だけして頂いたらそのまま帰らせて頂きたいんですが!」

 昼ごはん一緒するなんて聞いてないぞ!