黒胡椒もお砂糖も



 これ以上彼を楽しませるつもりはないのだ。でもどっちにしろ、この狭いエレベーターの中では逃げることも隠れることも出来ない・・・。

「カメラがついてるから、ここではキスも出来ないし」

 ぶっ・・・。

 ごほごほと思わず私は咳き込む。何とか手を彼から引き離して壁に背をついた。

「なっ・・・なっ・・・何てことを~!!」

 キ、キ、キスって~!!一体誰と誰の話なのだ!いやいやそんな、私のキャパは既に限界越えてますから~っ!

 顔が熱くて湯気が出そうだった。いやもしかしたら湯気は出ていたかもしれない。

 私は出来る限り高田さんから離れて壁に引っ付いていた。ああ・・・出来ることなら壁と同化してしまいたい。

 引き離された片手を握り締めて、彼は笑う。

「大丈夫ですよ、そんなことしません」

 チーン、と音がして、エレベーターはやっと18階に到着した。やたらとゆっくりと開くドアへ体を向けながら、高田さんは床から鞄を持ち上げて、私に微笑んで見せる。

「――――――今は、まだ、ね」

 真っ赤になって呼吸困難の私を置いて彼は出ていく。

 ・・・ばっ・・・・爆弾発言していきやがった・・・。

 私はストッキングが入ったコンビニの袋を床に落としたままで、暫くそのまま固まっていた。

 当然扉はしまってしまい、私が降りられないままでエレベーターはまた下へ向かって降り出す。