黒胡椒もお砂糖も



 共通の友人がどこまで知っているのか知らなかった。だから、私はそもそものあの春の日から話を始める。

 突然で驚いたこと。訳が判らないうちに彼が出て行ってしまったこと。それから二人きりでの話し合いは出来なかったこと。実家に彼の両親が謝りにきたこと。離婚になって、会社を退職し、しばらく寝てばかりで起きられなくなったことを。

 両親以外と話したことのないその話を全部喋った。途中で感極まって涙が出そうになると急いではんぺんやこんにゃくや竹輪を口に突っ込んで紛らわせた。

 お酒の力と温かい空気と美味しいおでんと、それから隣で黙って聞いてくれる女友達の存在が、私に話す勇気をくれていた。

 途中から陶子は痛そうな顔をして、眉を顰めて瞳を潤ませていた。私の方は見てなかった。じっと前を向いて聞いていた。

 シリアスな話だと思ったらしく店の大将もバイト君達も放っておいてくれたので助かった。

「・・・で、今に至るの」

 話終わって、秋鹿を冷で飲む。すっきりとした感触が喉を通り抜けて行く。・・・ああ~・・・美味しい・・・。

 陶子はハンカチを出して目の際を抑える。涙が出ちゃったわ、と言いながら。ゆっくりとハンカチを仕舞ってからカウンターの中にビール、と声をかけて、ほう、とため息をついた。

 二人とも黙って、ぼんやりと肘をついていた。

 陶子がゆっくりと私を振り返った。

「・・・よく頑張ったね、美香」

 その言葉はどストライクに胸に入って沁み込んで行く。うっと呻いて、言葉を飲み込んだ。

 発作的に号泣してしまうところだった・・・。危ない危ない・・・。