黒胡椒もお砂糖も



「今が元気そうで安心したよ。あいつのこと話したいなら聞くし、嫌なら話題に出さない。どうする?」

 あいつ。元ダンナの田西誠二のことだ。陶子の気遣いを嬉しく思い、首を振る。了解、と頷いて、陶子は仕事の話を始める。

 ビールで乾杯して、私の転職を含めた仕事の事で盛り上がる。彼女はデザイナーで、個人で営業もするので営業職につきまとう一通りの苦労は判るのだ。

 ビールは一度にして、それからは熱燗でおでんを食べる。学生時代から冬の飲み会はここと決めていた、馴染みの店だった。離婚してからはこの店にも来ていなくて、懐かしさもあって余計に料理が美味しく感じる。

 おでんがメインで大なべにぐつぐつ煮えていて、他には簡単なつまみ程度の食べ物。ただし、お酒は各種大量に仕入れてある。食べるというよりはのみに来る店だった。

 休日に、早い時間から気心の知れた友達と笑いながら飲む。

 これって最高の時間の使い方だな、と心底思った。

 結婚している時には持てなかった時間だ。やはりこの世の中の全てのことは、結局良い面だって悪い面だってあるのだ、と思った私だった。

 とりあえず、今の私は、幸福だって。

 酒には強いので私が来る前から飲んでいた陶子のほうがシャンとしていた。

 私は心が解れたのもあって、破綻した結婚生活のことを聞いて欲しくなる。

「ねえ、話しても、いい・・・かなあ?」

 少し舌足らずになってしまっていた。うーん?とほんのり赤らんで色気の増した陶子が私を振り返る。

「・・・誠二の事、話してもいいかなあ?」

 もう一度聞くと、少し目を見開いた。でも、うん、と頷いてくれる。