だって、別に不味いほどじゃあなかったし、と彼は続ける。

「勿論別に構わないんですが、あくまでも自分の好み、希望は叶える男だなといつも思うんですよね、俺」

 あたしはそういえばとカフェでの事を思い出した。

「高田さんて、コーヒーにも砂糖もミルクも入れてました。営業では珍しい人だな、と思ったんです。まあ同僚と居るんだから自分好みにしても問題はないんですけどね」

 平林さんはあはははと声を出して笑う。

「そうそう、でもあいつは多分お客さんの家であっても砂糖もミルクも要求しますよ、自分が飲みたいと思ったら」

 ・・・自分に正直なのは悪いことじゃないけど・・・面倒な営業だな。我儘だ。まあ、あの美形に頼まれたら女性はすっ飛んで、しかも喜んで用意してくれそうだけど。

 カフェの店員の甘えたような高い声を思い出した。

「だからね」

 平林さんの弾んだ声が地下の駐車場に響いた。車をロックして、平林さんはこちらに歩いてくる。私はコートと鞄を持ってそれを見ていた。

「あいつが尾崎さんを欲しいと思ったなら、簡単には諦めないってことですよ」

 ・・・何てこったい。

 私は思わず呟く。

「・・・黒胡椒もお砂糖も」

「そう、そして」

 平林さんはにっこりと笑った。それはいつも彼が壇上で見せる、堂々とした笑顔だった。自分に自信がある人だけが出来る、確信した笑顔。

「好きな女も」



 つまり、私も。