「――――――――高田です。高田篤志、あいつの名前です」

「へえ」

「・・・・」

「何ですか?」

「・・・尾崎さんくらいだと思いますよ、あいつの名前知らないのって」

 あっちも私に呆れているらしい。私は簡単に肩をすくめた。

「まあ、無駄に目立ちますからね、あなた達。すみません、興味がないもので」

「・・・無駄って・・・」

 今度はドン引きしたらしい。大げさに仰け反っている。

 とにかく、送ってくれてありがとうございました、と礼を言って私は車のドアを開ける。

 平林さんも車から出ながら、あいつはね、とまた口を開いた。

「自分の欲求に忠実なんです。そういう意味では我慢なんてしない男なんですよ」

 うん?何だそれは?

 私は瞬きをして平林さんを見る。

「・・・どういう事ですか?」

 車から鞄とコートを引きずり出しながら、平林さんはうーん、と少し首を傾げる。しばらく例を考えてから口を開いた。

「例えば・・・一緒に飯食うでしょ」

「はい」

「肉料理に味が足りないと思ったら、スパイスを注文したりするんです。嫌いなものは特になくて何でも食べるけど、妥協はしない。自分が欲しいと思ったら、持ってこさせる。前はちょっと足りなかったみたいで、黒胡椒持って来させてました。俺はそこまでしませんけどね」