『聞きなれない声だな』


中尾君はそう言い、声が聞こえる校長室へと足を向けたのだ。


校長室なんて、あたしたちにとっては最も恐ろしい場所だ。


いつイジメがバレて呼ばれるかわからない場所。


呼ばれても決して本当の事を話すことはできない場所。


少しでも酒本と公恵の事を口にすれば、今度はどれほどの仕打ちが返って来るかわからないからだ。


『ちょっと、中尾君』


あたしは中尾君を止めようと手を伸ばした。


しかし中尾君はあたしの声が聞こえなかったようで、校長室のドアに耳をあてて中の様子を確認していた。


『もう、帰ろうよ』


そう言うと、『しっ!』と、人差し指を立てる中尾君。


こんな所で聞き耳を立てていて、人が出て来たら言い逃れができない。


あたしたちの制服はボロボロだし、中尾君は耳から血まで流している。


校長が見逃すとは思えなかった。


『中に<mother>の人間が来てるみたいだ』


小さな声で中尾君はそう言った。


『<mother>って、あのビルのか?』


興味を持ったように木村君がそう聞き、同じように聞き耳を立て始めた。


あぁ、もう。


あたし1人で帰ろうかな。


そう思ったが、ここまで一緒にきている3人を置いて帰る気にもなれなかった。