自分の動画だけならともかく、他の3人まで巻き添えにしたくない。


そんな気持ちがみんなの中にあったんだ。


それが原因で、あたしたちは数で勝っても決して公恵と酒本に勝てるわけではなかった。


「お前がトイレの水を飲まないと、中尾の口に放尿するぞ」


そんなふうな脅され方も何度もされてきた。


あたしたち4人はかばいあい、助け合いながらひっそりと耐えて来ていた。


その日も、2人から激しいイジメにあい、ようやく解放された時だった。


4人で教室を出て生徒玄関へと向かっていた。


校内に残っている生徒なんて他には誰もいなくて、薄暗い蛍光灯が周囲を照らし出しているだけだった。


その時、中尾君が不意に足を止めたのだ。


『声が聞こえてくる』


普段は人の声にビクビクし、人の声を聞くとすぐに逃げていたあたしたち。


だけどこの日は中尾君の様子が違った。


きっと、中尾君は限界だったんだと思う。


あたしは中尾君の右耳から流れている血をぼんやりと見つめていた。


今日酒本に『ピアスだ』と言いながら釘を刺された箇所だ。


中尾君は決して泣く事はなかったけれど、今だ流れ出ているその血こそ、中尾君の涙のように見えた。