「ふふっ、変だね。
 きっと、嬉し涙だよ」

 小さく笑ってトオルさんを見上げる。


 すると、トオルさんは探るように私の瞳を覗き込んだ。

「…ウソだね」


―――そんなはずない!

 私はすぐ反論する。

「何でそんなこと言うの?
 トオルさんのそばにいる事を自分で選んだんだよ?」

 はっきりと告げる。

 それでも、トオルさんの顔は一向に晴れない。

「そんなに悲しそうなのに?
 とてもじゃないけど、喜んでいるようには見えないよ」

 トオルさんは握っていた手を解いて、一歩離れた。


「あ~あ。
 やっぱりダメだったかぁ」

 そして床に視線を落として、大きなため息をつく。

―――ダメ?
   何が?

 首をかしげる私を苦笑しながらトオルさんが見る。

「結構自信あったんだけど。
 どうやっても、俺は桜井さんに勝てないんだね」



―――どうしてここでアキ君の名前が出るの?!

 トオルさんの言動の意味がぜんぜん分からない。