あの後、トオルさんは用事があるからと言って研究所に向った。

 日本からのお客さんで、研究費用を援助してくれた人に会うのだという。


「人の為にお金を出すなんて、きっと立派な方なんだろうなぁ」


 その人のおかげで、私は話せるようになった。


 心の片隅で、人工声帯の研究がもっと早くに完成していればと思うけれど。


 小学生の頃に、とは言わないけれど。

 せめて2年前に技術と素材が完成していれば、私の人生は今とは大きく違っていただろう。


 だけど、これが私の運命なのだ。


 あきらめていた声が取り戻せただけでも、十分感謝に値する。




 名前も顔も知らない出資者に向って、『ありがとうございます』とつぶやいた。