人工声帯の手術を前にして、私は色々な検査を受けた。


 身長、体重、骨格、顔や首の筋肉の付き方など細かく調べる。

 そのデータをもとに、本来の私の声に合った声帯を作るらしい。


 一つ一つの検査が時間をかけて慎重に進められたため、私はぐったり。

 そして、少しずつ近づいてくる手術に緊張と恐怖は隠せない。


 でも、お兄ちゃんがずっとそばにいてくれたから。

 明るく、優しく、励まし続けてくれたから。


 私は逃げ出さずに済んだ。



 ようやくすべての測定が終わり、病院のベッドで横になっていると次はいよいよ手術。

 トオルさんも手術に立ち会う。


 麻酔をかける前に、人工声帯を見せてもらった。 

 独特の感触を持つ薄い膜は、ゴムのようにグニャグニャと柔らかい。

 それなのに、思い切り引っ張ってもハサミを使っても、絶対に切れないという不思議な素材。


 これが完成するまでに5年以上も費やしたらしい。

 もしかしたら、もっと長い時間がかかったかもしれないと、トオルさんが言う。


 2年ほど前からある人が『研究費用に』と、多額の資金を援助し続けてくれたとのこと。

 その援助のおかげで研究が格段に進み、人工声帯は完成したのだと教えてもらった。