「チカちゃん?」 

 呆けてしまった私は、お兄ちゃんの声で我に返る。


―――いけない、いけない。
   挨拶してくれたのに、返事をしないのは失礼だよね。


 私は急いで笑顔を作って、メモの上にペンを走らせた。

“気にしないでください”


 アキ君にメモを見せると、彼はじっと文字を見詰めたまま動かない。

 何も言ってくれない。


―――あれ?
   記憶喪失って、文字まで忘れちゃうの?!


 変に思って首をかしげていると、お兄ちゃんがアキ君に声をかける。

「桜井さん、どうしました?」


 呼ばれてハッとするアキ君。

「え?
 ・・・あ、すいません」


 謝ったアキ君はおにいちゃんと私を交互に見比べる。

 そして、言いづらそうに口を開く。

「あの・・・。
 どうしてこの方はお話されないのでしょうか?」


 いきなりメモを書き出した私の行動に、アキ君は戸惑っていたらしい。