10分位して、お兄ちゃんが出てきた。

「少し話をしようか」

 この病院の中庭に向けて、お兄ちゃんが歩き出す。

 私はおとなしく後をついてゆく。


 木陰にあるベンチに並んで座った。

 お兄ちゃんは何も言わず、しばらくの間景色を見ていた。



「あのさ・・・」

 視線を景色から私に移して、お兄ちゃんが言う。 


“何?”

「本当に、桜井さんと別れたの?」

 確かめるように、じっと私を見ている。


“本当だよ”

 短く一言で返す。


「そう・・・。
 だけど、嫌いになって別れたって感じじゃなさそうだね?」


 私はあいまいに微笑む。

 それだけで、お兄ちゃんには分かってしまったかもしれない。


 とても勘がいい人だから。