何台かの救急車ですべてのケガ人を搬送し終えたのは、日付が変わる頃だった。

 裕子さんは通訳として、病院へ行っている。


 私一人で教会の前に立っていると、後ろから声をかけられた。


「おつかれさん」

 お兄ちゃんがジュースを持ってきてくれた。


 教会の入り口の石段に、並んで座る。


“お兄ちゃん。
 本当にお医者さんになったんだね?”

「なんだよ。
 今まで信用してなかったのか?」

 手を伸ばしてきて、私の髪をグチャグチャにする。


“ああっ、もう!”


 ぷぅっとほっぺを膨らませると、お兄ちゃんが笑った。

「その顔、変わってないなぁ」

“えー、えー。
 どうせ私はいつまで経っても子供っぽいですよっ”


 睨みつけてやろうと横を向いたら、お兄ちゃんはもう笑ってなかった。