―――私のこと、嫌いになったかな?

 少しだけ歩調がゆっくりとなる。


―――あんな去り方をしたんだもん。
   憎んでるよね。


 何も言わないで姿を消した。

 別れの挨拶は短い手紙だけ。

 
 我ながら卑怯な消え方だったと思う。


―――それとも、こんなひどい私のことなんてとっくに忘れちゃったかな?
   アキ君はかっこいいから、女の人が放っておかないだろうし。



 とぼとぼと歩きながら、小さくため息。

―――忘れられて当然か。
   ・・・だけど。
   嫌いでも恨んでもいいから、覚えていてくれないかなぁ。


 そう考える自分に苦笑い。

―――そんなムシのいい話、ないよね。
   綺麗さっぱり忘れちゃってるよね。

 
 うっすらと瞳に浮かんだ涙を指でぬぐう。




 アキ君が私のことを忘れてもいい。


 私は覚えているから。

 一生、忘れないから・・・。