叔母様は詰めていた息をゆっくりと吐き出す。

「・・・ごめんなさいね。
 謝ってすむことじゃないけど、晃君も会社も失うわけにはいかないのよ」

 叔母様はテーブルにおでこがつくくらい、頭を下げた。



 私のような年若い人間に対して、叔母様が頭を下げている。

 もしかしたら、今の叔母様は屈辱を感じているのかもしれない。


 大グループの副社長という立場の彼女。

 その日常で頭を下げられることはあっても、自分から頭を下げることはないはず。


 だけど、そのプライドよりもアキ君が跡を継ぐことが大事なんだ。


 自分の気持ちよりも会社のため。

 何よりアキ君のため。




 私は手を伸ばして、頭を下げ続ける叔母様の肩にそっと触れる。

“もう謝らないでください。
 こんな私にアキ君のような素敵な人が彼氏だなんて、最初から夢物語だったんですよ。
 その夢が覚めるだけですから”


「チカちゃん・・・」

 顔を上げた叔母様のほうが泣きそうだった。