「おしょう油が足りなくなっちゃったの。
 買ってきてくれる?」

 リビングでテレビを見ていると、台所からお母さんが来てそう言った。

 私はうなずいて、テレビを消す。


「お願いね」

 お母さんからお金を受け取って、コートとマフラー、携帯電話を持って家を出た




 歩いても往復で15分くらいの距離にある近所のスーパーでおしょう油を買って、家へと急ぐ 。

―――今夜のメニューは何かなぁ。


 小走りで角を曲がると、その先に大きな野良犬がいることに気がついた。


 幼稚園の頃に近所の犬に噛み付かれて以来、すごく苦手。


 道をふさぐ形で、野良犬は私をにらんでいる。

 あいにく私の前にも後ろにも誰ひとりいなくて、助けてもらえない。


―――どうしよう。

 その犬はお腹が空いているのか、おしょう油の入った袋をじっと見ていて。

 低いうなり声を出して、少しずつ私のほうに近づいてくる。