俺と彼女は近くにあったベンチに腰を下ろす。


 俺の右側に座る彼女から伝わる体温が心地いい。


 お互いの体温を感じながら、2人とも黙ったまま。

 さっきまで話せていたのに、改まると妙に気恥ずかしい。


―――ダメだ。
   何か話さないと。


 俺は頭をめぐらせて、話のきっかけを探した。

「あ、あのさ。
 いつから好きになってくれたの?」


 俺と接する彼女は、これまでずっと『俺を好きだ』という素振りを見せてくれなかった。

 単に“顔見知りの先輩”という感じで。


 彼女は何回か瞬きをした後、考え込む。


 しばらく首をかしげて、サラサラとペンを動かした。

“体育祭で、先輩がリレーの選手で走った時からです。
 怖いくらいに真剣な顔に目が奪われて”


「そっか。
 俺が必死だったのは、俺を応援してくれているチカちゃんを見たからなんだ」

“え?
 あんなにたくさん人がいたのに、よく私が分かりましたね?”

「だって、あんなに大きなポンポンを振り回してたら、目に入るよ」


 くすっと笑う。