“知りたくないと思わせる何かを持つなら、
その男を選ぶのはやめなさい。”
ママの格言。
知れば傷つく。だから知りたくない。
本能が危険回避してるってことだから。
『航大。』
「なに?」
『女、いるじゃん。
私のこと本当に好きなら、清算してから来い。』
親指で、私の目元をなぞる手が止まる。
丸く見開いた目が発したのは。
予想外の、一言。
「・・・その話、さっきしたじゃん。」
『え?』
「やっぱ寝てたか。笑
途中から 反応ねぇから、聞いてんのかなと思ったんだけど。」
うっすら、蘇る記憶。
艶やかな攻防戦の中で、風邪薬がもたらした眠気に負けた私は。
甘いキスを降らす航大を胸を押し退け、最終的に様々悪態をつきながら。
それでも抱き寄せる腕と航大の鼓動の心地よさに完敗し、目を閉じた。
・・・気が、する。
「理沙。
すげー、好き。」
私の側頭部に手をあてて、真っ直ぐ私を見据える瞳に。
黒豹を前に動けなくなった
弱き動物と化す。
「ちゃんとするから、待ってて。ちゃんとして、もう一度迎えに来るから。」
近づいてくる瞳から逃げられないのは、固定された側頭部のせいか。
黒豹の瞳の、熱のせいか。
「そのときは大人しく、俺のものになれ。」
観念しろだの、大人しくしろ、だの。
この男は、一体私をどうしたいのか。
ママが言ってた。
荷物付きの男の「ちゃんとする」ほど、危ういものはないって。
だけどそれほど。
魅惑的なものもないって。
私にはまだ、危うさしか感じられない。
堕ちていきそうな自分が
危うくて怖い。